残業代が正しく支払われているかどうかは、給与明細を見ただけでは判断がつきにくいものです。制度の名前がついていると、それだけで「支払われている」と思い込んでしまうこともあります。

この記事では、未払いが起きやすいケース、時効、証拠の集め方、請求の流れを順に整理します。金額の見積もりや、個別の事案が未払いに当たるかどうかの判断は扱いません。自分の状況を確認し、専門家に相談できる状態にするまでの手順として読んでください。

未払い残業代が発生しているケース

次のような状況は、確認したほうがよい場合として挙げられます。あくまで「確認の入口」であり、これに当てはまるから直ちに未払いというわけではありません。

固定残業代・みなし残業

毎月一定額の残業代があらかじめ給与に含まれている仕組みです。この仕組み自体が違法ということはありませんが、一般的には、固定残業代に相当する時間数が明示されていること、その時間を超えた分は別途支払われることが必要とされています。

給与明細で、基本給と固定残業代が分けて記載されているか、何時間分に相当するのかが分かるかを確認してみてください。

管理監督者として扱われている

労働基準法第41条第2号の管理監督者に当たる場合、労働時間や休憩に関する規定の適用が除外されます。ただし、役職名がついているかどうかで決まるものではなく、職務の内容や権限、勤務時間の裁量、待遇などから実質的に判断されるとされています。

休憩時間

労働基準法第34条は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、労働時間の途中に与えなければならないと定めています。休憩は自由に利用できることが原則とされているため、電話番をしながらの昼食など、実際には手を離せない時間の扱いは確認の対象になります。

着替えや朝礼の時間

制服への着替えが義務づけられている場合や、参加が義務づけられている朝礼、始業前の準備の時間については、労働時間に当たるかどうかが問題になることがあります。使用者の指揮命令下に置かれている時間かどうかで判断されるという考え方が一般的です。

時効は3年

未払い賃金を請求できる期間には期限があります。労働基準法第115条により、賃金請求権の消滅時効は5年とされていますが、当分の間は3年とする経過措置が置かれています(2020年4月1日施行の改正による)。

数え方は、給与の支払日ごとに進みます。毎月の給与のうち、支払日から3年を過ぎた分から順に請求できなくなっていくという形です。

請求できる金額の考え方

計算の基本は、1時間あたりの賃金に、割増率と時間数を掛けたものです。

労働基準法第37条は、時間外労働、休日労働、深夜労働について、通常の賃金に一定の割増率以上の割増賃金を支払わなければならないと定めています。時間外労働は2割5分以上、休日労働は3割5分以上、深夜労働(原則として午後10時から午前5時まで)は2割5分以上が基準です。1か月60時間を超える時間外労働については5割以上とされています。

1時間あたりの賃金は、月給制の場合、月の所定賃金を1か月の平均所定労働時間で割って求めるのが基本です。ただし、通勤手当や家族手当など、計算の基礎から除外される手当があります。

証拠になるもの

請求の可否を左右するのは、働いた時間を示せるかどうかです。次のようなものが記録として使われています。

  • タイムカード、勤怠システムの記録:最も基本的な資料です。写しを取れる場合は取っておきます。
  • 業務メールやチャットの送信時刻:何時まで働いていたかを示す材料になります。
  • パソコンのログイン・ログアウトの記録
  • 手帳や日記:毎日の始業・終業時刻を自分で記録したものです。継続して記録されていることに意味があります。
  • 交通系ICカードの利用履歴:退勤時刻の目安になります。履歴の保存期間には限りがあるため、早めに印刷や保存をしておきます。
  • 入退館の記録、業務日報、シフト表

会社のデータを持ち出す行為は、就業規則や秘密保持の観点から問題になることがあります。自分の労働時間に関する記録に限る、私物の端末に業務データを移さないなど、扱いには注意してください。

タイムカードがない場合

タイムカードがない、あるいは実際の時間と違う打刻をさせられていたという場合もあります。

この場合でも、手帳の記録、メールの送信時刻、家族へのメッセージなど、複数の資料を組み合わせて労働時間を推認するという進め方があります。ひとつの資料で完結させる必要はありません。

なお、使用者には労働者名簿や賃金台帳などを一定期間保存する義務があります(労働基準法第109条)。会社側に記録が残っている可能性もあるため、資料が手元にないことだけを理由にあきらめる必要はありません。

請求の流れ

一般的には、次の順で進みます。

  1. 資料を集める:給与明細、雇用契約書、就業規則、勤務時間が分かる記録
  2. 会社に請求する:内容と金額を示して支払いを求めます。記録が残る形で行うのが一般的です
  3. 話し合いで解決しない場合:外部の窓口や手続きを検討します

外部の窓口としては、次のようなものがあります。

  • 労働基準監督署:労働基準法違反にあたる事案について、会社に対する指導や是正勧告を行います。個別の金額の取り立てを代行する機関ではない点は理解しておく必要があります。
  • 総合労働相談コーナー:都道府県労働局や労働基準監督署内にある窓口で、労働問題全般を無料で相談できます。
  • 弁護士:交渉、労働審判、訴訟までを扱えます。費用の見通しも含めて相談できます。
  • 労働審判:裁判所で行われる手続きで、原則として3回以内の期日で結論を目指す制度です。

在職中に請求するか、辞めてから請求するか

どちらにも事情があります。判断の材料を挙げます。

在職中に請求する場合、証拠を集めやすい一方で、社内の関係に影響が出る可能性があります。請求したことを理由に不利益な取り扱いをすることは問題になり得ますが、居心地の面まで法律が守ってくれるわけではありません。

退職後に請求する場合、関係を気にせず進められる一方で、資料へのアクセスが難しくなります。時効も進み続けます。

よくある質問

残業を申請していなかった分も対象になりますか

申請の有無だけで決まるものではなく、実際に使用者の指揮命令下で働いていたかどうかで判断されるという考え方が一般的です。申請していないという事実は、会社側の反論材料にはなり得ます。

「残業代は出ない」と説明されていました

そのような説明があったことだけを理由に、法律上の割増賃金の支払義務がなくなるわけではないとされています。労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定めた労働契約は、その部分については無効となります(労働基準法第13条)。

会社を辞めた後でも請求できますか

退職していても、時効の範囲内であれば請求できます。退職時には賃金や貸与品の精算についての規定もあります(労働基準法第23条)。詳しくは会社を辞めた後の手続き一覧もあわせて確認してください。会社との関係がこじれている場合の進め方は退職を引き止められたときの対処法にまとめています。


本記事は一般的な情報提供であり、法律相談ではありません。個別の事情については、勤務先の就業規則を確認のうえ、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、または弁護士等の専門家にご相談ください。