パワハラを受けているとき、最初にやっておくべきことは記録です。相談しても「証拠がない」で止まってしまうことがあるためです。
ここでは、何がパワハラに当たるか、何をどう記録するか、どこに相談するかを順に整理します。
パワハラの定義
職場におけるパワーハラスメントについては、労働施策総合推進法第30条の2第1項が、事業主に対して雇用管理上必要な措置を講じる義務を定めています。中小企業を含めて義務化されています。
同法にもとづく指針では、次の3つをすべて満たすものとされています。
- 優越的な関係を背景とした言動である
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものである
- 労働者の就業環境が害されるものである
3つ目は、平均的な労働者の感じ方を基準に判断されるとされています。つまり、本人が不快に感じたかどうかだけで決まるものではありません。
また、代表的な行為として6つの類型が示されています。
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴る、蹴る、物を投げつける |
| 精神的な攻撃 | 人格を否定する発言、他の従業員の前での叱責 |
| 人間関係からの切り離し | 別室に隔離する、無視する |
| 過大な要求 | 明らかに達成不可能な業務を課す |
| 過小な要求 | 能力とかけ離れた程度の低い業務しか与えない |
| 個の侵害 | 私的なことに過度に立ち入る |
記録が必要な理由
パワハラは、多くの場合その場に第三者がいません。後から会社や外部の窓口に相談したとき、事実そのものが争いになります。
記録があると、次の点で違いが出ます。
- いつ、何が、どのくらいの頻度で起きているかを示せる
- 単発の出来事ではなく、継続していることを示せる
- 相談した日時と、会社の対応の有無を示せる
反対に、記憶だけで説明しようとすると、日付や発言内容が曖昧になり、話が進みにくくなります。
何を記録するか
一件ごとに、次の項目を残します。
- 日時:年月日と、おおよその時刻
- 場所:会議室、フロア、オンライン会議など
- 相手:役職と氏名
- 発言や行為の内容:できるだけそのままの言葉で
- 目撃者:その場にいた人の氏名
- 自分の状態:そのとき、その後にどうなったか(眠れない、出社が怖いなど)
記録の方法
続けられる方法を選ぶことが大切です。凝った形式は続きません。
- 手書きのメモや手帳:その日のうちに書きます。日付が印字された手帳だと後から書き足しにくく、記録としての性質が保たれます。
- 自分宛てのメール:送信日時が自動的に残ります。会社のアカウントではなく、個人のアドレスを使ってください。
- メールやチャットの保存:業務上のやり取りに該当の発言が含まれている場合、そのまま資料になります。
- 録音:発言内容をそのまま残せます。
録音については、自分が当事者として参加している会話を録音することが、直ちに違法とされるわけではないという考え方が一般的です。ただし、就業規則で録音を制限している会社もあり、録音の方法や目的によっては別の問題が生じ得ます。断定できない部分があるため、実際に使う前に相談先で確認することをおすすめします。
記録以外に集めておくもの
行為そのものの記録に加えて、状況を裏づける資料があると説明しやすくなります。
- 診断書や通院の記録:心療内科や内科を受診した記録です。症状と受診時期が分かります。
- 勤怠の記録:業務量が争点になる場合、労働時間の記録が資料になります。未払い残業代が絡む場合は未払い残業代の確認と請求手順もあわせて確認してください。
- 業務の割り当てが分かる資料:担当表、シフト、指示のメールなど。過大・過小な要求を示す材料になります。
- 相談した記録:社内の窓口に相談した日時と、その後の対応です。
社内の相談窓口
事業主には、パワハラの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する義務があります(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。多くの会社では、人事部門やコンプライアンス窓口、外部委託の相談窓口が設けられています。
また、同法第30条の2第2項は、相談したことを理由に解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。
ただし、相談窓口が行為者と近い部署にある場合など、社内での解決が難しいこともあります。その場合は社外の窓口を検討してください。
社外の相談先
- 総合労働相談コーナー:都道府県労働局や労働基準監督署内に設置されている窓口です。予約不要・無料で、あらゆる労働問題を扱います。最初の相談先として使いやすい窓口です。(厚生労働省の案内)
- 都道府県労働局のあっせん:紛争調整委員会が間に入り、当事者の話し合いによる解決を目指す制度です。無料で利用できます。(個別労働紛争解決制度)
- 弁護士:損害賠償請求や、退職を伴う交渉が必要な場合の相談先です。費用が心配な場合は法テラスの制度を利用する方法があります。
窓口ごとの費用や対応範囲は労働問題の相談先一覧にまとめています。
よくある質問
録音していることを相手に伝える必要がありますか
自分が参加している会話の録音について、相手に告げる義務を定めた規定は見当たりません。ただし、就業規則で制限されている場合があります。取り扱いに迷う場合は相談先で確認してください。
会社に相談したら不利益な扱いを受けました
相談したことを理由とする不利益取扱いは、労働施策総合推進法第30条の2第2項で禁止されています。時期と内容を記録したうえで、社外の窓口に相談してください。
退職を考えていますが、記録は残すべきですか
残しておくことをおすすめします。離職理由の判断や、退職後の請求に関わることがあるためです。退職の進め方は退職の伝え方・切り出し方、会社が辞めさせようとしている場合は会社が辞めさせようとしているサインを確認してください。
本記事は一般的な情報提供であり、法律相談ではありません。個別の事情については、勤務先の就業規則を確認のうえ、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、または弁護士等の専門家にご相談ください。