退職を伝えるとき、必ず聞かれるのが理由です。ここでの答え方によって、その後の話し合いの長さが変わります。伝え方の全体的な流れは退職の伝え方・切り出し方にまとめています。この記事では理由の部分だけを詳しく扱います。
退職理由を正直に言うべきか
退職理由をすべて正直に話す義務はありません。会社に伝える必要があるのは、退職するという事実と、希望する退職日です。
とはいえ、まったく理由を言わないのも現実的ではありません。上司の側にも、引き継ぎの手配や後任の相談という業務があるためです。
現実的な落としどころは、事実に反しない範囲で、必要なところだけを伝えることです。建前を使うのは不誠実というより、必要のない交渉を増やさないための実務的な選択という考え方があります。
「一身上の都合」で足りる場面
退職届に書く理由は「一身上の都合により」で足ります。自己都合による退職であれば、これ以上の記載を求められることは通常ありません。
口頭の面談でも、上司が納得すればそれ以上の説明は不要です。「一身上の都合で」とだけ伝えて、詳細は控えたいという意思を示す方法もあります。
一方で、そのまま押し通すと関係がぎくしゃくすることもあります。次に述べる「解決できない理由」を一つ添えておくと、話が進みやすくなります。
引き止められにくい理由の共通点
引き止めは、会社が何かを提示すれば解決できると考えたときに起こります。裏を返せば、会社側で解決できない理由であれば、提示できる条件がありません。
| 理由の種類 | 会社が出しうる対応 | 引き止めの起こりやすさ |
|---|---|---|
| 給与への不満 | 昇給、賞与の見直し | 起こりやすい |
| 部署や業務への不満 | 異動、担当替え | 起こりやすい |
| 人間関係 | 配置転換 | 起こりやすい |
| 家庭の事情 | 対応が難しい | 起こりにくい |
| 職種そのものの転換 | 対応が難しい | 起こりにくい |
| 体調 | 休職の提案はあり得る | 場合による |
不満を理由にすると、それは改善提案として受け取られます。会社としては条件を出す流れになり、断るたびに話が長くなります。提示された条件を断り続けると、こちらが理不尽なことを言っているような空気になることもあります。
ここで重要なのは、どちらの理由が本当かではありません。給与に不満があり、かつ家庭の事情もある、という状態は珍しくないためです。伝える理由を選ぶことは、事実を偽ることとは別だと整理しておくと迷いが減ります。
使いやすい理由の例と伝え方
事実に反しない範囲で使いやすいのは、次のような理由です。
家庭の事情
介護、配偶者の転勤、育児など、勤務の継続そのものが難しくなる事情です。詳細を話す必要はありません。
「家庭の事情で、これまでと同じ働き方を続けることが難しくなりました」
キャリアの方向性
別の分野に移りたい、専門を変えたいという理由です。現在の会社では実現できない方向であることが伝われば十分です。
「以前から関心のあった分野に、年齢的にも今のうちに移りたいと考えました」
体調
無理のない範囲で伝えます。診断書の提出義務はなく、病名を詳しく話す必要もありません。
「体調面で不安があり、一度立て直す時間を取りたいと考えています」
いずれの言い方も、詳しく話さないことを前提にしています。聞き返されたときに答えを用意しておくと、その場で言葉に詰まらずに済みます。
言わない方がいいこと
次の3つは、伝えても状況がよくなりにくく、話を長引かせる原因になりがちです。
- 会社への批判や待遇への不満:改善提案と受け取られ、条件提示による引き止めにつながります。
- 他人の名前:「◯◯さんとうまくいかない」と個人名を出すと、退職の話が事実確認に切り替わり、退職日が後ろにずれることがあります。ハラスメントの被害を訴えたい場合は、退職の話とは分けて進めるほうが整理しやすくなります。
- 転職先の詳細:社名や年収を伝えると比較の話になりやすく、取引先や同業だった場合には別の問題に発展することもあります。「次は決まっています」程度で足ります。
退職届に書く理由と、面談で話す理由の違い
この2つは役割が違います。
退職届は、退職の意思を届け出る書面です。書く理由は「一身上の都合により」で足ります。詳しい事情を書く場所ではありません。書式や書き方は退職届の書き方にまとめています。
面談は、退職日や引き継ぎを相談する場です。ここで話す理由は、相手が納得して手続きを進められる程度の説明であれば足ります。
書面と口頭で内容が食い違わないようにだけ注意してください。書面に「一身上の都合」と書きながら、面談で会社の問題を強く主張すると、後述の離職理由の扱いで話がこじれることがあります。
なお、会社が独自の退職理由の記入欄を設けた様式を用意している場合もあります。細かく書く義務はありませんが、様式に沿わないと差し戻されることがあるため、記入の程度は事前に確認しておくと二度手間になりません。
会社都合と自己都合で失業保険が変わる点
離職理由は、失業保険(雇用保険の基本手当)の扱いに影響します。
倒産や解雇などによる離職は特定受給資格者に当たり(雇用保険法第23条第2項)、自己都合の場合に設けられる給付制限期間がなく、所定給付日数も長くなることがあります。
注意したいのは、実態が会社側の事情でも、自分から「一身上の都合」で退職届を出すと自己都合として処理されやすい点です。退職勧奨を受けている、労働条件が大きく変わった、といった事情がある場合は、退職届を出す前に離職理由の扱いを確認してください。
よくある質問
転職先が決まっていることは言うべきですか
言う義務はありません。ただし、退職日の調整で入社日に触れる必要が出ることはあります。その場合も「次の予定が決まっている」程度で足り、社名まで伝える必要はありません。
嘘の理由を言っても問題になりませんか
一般に、退職理由の説明そのもので法的な責任が生じることは考えにくいとされています。ただし、事実と大きく異なる説明は、社内で確認された際に信頼を損ねます。事実に反しない範囲で、話す部分を選ぶという整理が安全です。
引き止められて理由を追及されます
理由を詳しく話すほど、その理由への反論という形で話が続きます。「申し訳ありませんが、事情は詳しくお話しできません。退職の意思は変わりません」と繰り返す方法があります。それでも話が進まない場合は退職を引き止められたときの対処法を確認してください。
本記事は一般的な情報提供であり、法律相談ではありません。個別の事情については、勤務先の就業規則を確認のうえ、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、または弁護士等の専門家にご相談ください。