上司に退職の意思を伝えたあと、次に必要になるのが書面です。「退職届」と「退職願」は似ていますが、法律上の位置づけが違います。違いを押さえたうえで、書式と記載例、渡し方までを順に見ていきます。
口頭で伝える段階の進め方は退職の伝え方・切り出し方にまとめています。
退職届と退職願の違い
一般的には、次のように整理されます。
| 退職願 | 退職届 | |
|---|---|---|
| 意味 | 退職を願い出る書面 | 退職することを届け出る書面 |
| 法律上の位置づけ | 合意解約の申込みと解される | 確定的な退職の意思表示と解される |
| 撤回 | 会社が承諾する前なら撤回できる余地がある | 到達後は原則としてできない |
| 会社の承諾 | 承諾によって退職が成立する | 承諾がなくても民法第627条第1項により申入れから2週間で終了する |
意思表示は相手方に到達した時からその効力を生じます(民法第97条第1項)。退職届の場合、会社に届いた時点で効力が生じるため、後から「やはり撤回したい」と言っても認められないのが原則です。
この違いが実際に効いてくる場面は多くありません。ほとんどの人は、退職の意思が固まってから書面を出すためです。ただし、引き止めの条件を提示されて迷う可能性が少しでもあるなら、どちらの書面を出すかで後戻りのしやすさが変わる、という点は知っておいて損はありません。
どちらを出すべきか
会社の様式や提出書類が決まっている場合は、それに従うのが基本です。就業規則や社内イントラで確認できます。
指定がない場合の考え方は次のとおりです。
- 退職の意思が固まっていて、日付も決まっている → 退職届
- まだ上司と相談中で、退職日も確定していない → 退職願
実務では、口頭で伝えたあとに退職届を出す流れが多く見られます。先に書面だけを机に置くような出し方は、話がこじれる原因になりやすいため避けたほうが無難です。
なお、会社都合の退職や、会社から退職を勧められた場合は、書面の書き方によって離職理由の扱いが変わることがあります。自己都合の様式で提出してよいか、事前に会社に確認しておくほうが安全です。
書き方(縦書き・横書き、手書き・PCの可否、書式)
書式に法律上の決まりはありません。会社の指定がなければ、次の範囲であれば問題になることはほとんどありません。
- 縦書き・横書き:どちらでも構いません。改まった印象になるのは縦書きです。
- 手書き・パソコン:どちらでも構いません。会社が様式を用意している場合はそれに従います。
- 用紙:白無地の便箋。B5またはA4が一般的です。
- 筆記具:黒のボールペンか万年筆。消えるペンは避けます。
- 押印:会社の指定によります。指定がなければ、押しておけば足りないということはありません。
修正液や修正テープでの訂正は避け、書き損じたら新しい用紙に書き直します。
提出前に、写真を撮るかコピーを取って手元に残しておくことをおすすめします。退職日をめぐって後から食い違いが出たときに、いつ何を出したかを示せる材料になります。
記載例(全文)
退職理由は「一身上の都合」で足ります。詳しい事情を書く必要はありません。
「私事」は「私儀(わたくしぎ)」でも構いません。縦書きの場合、この語は行の下部に寄せて書くのが慣習です。
退職願にする場合は、本文の末尾を「〜退職いたしたく、お願い申し上げます」に変えます。
封筒の書き方と渡し方
封筒は白無地で、郵便番号の枠がないものを選びます。用紙のサイズに合わせて、B5三つ折りなら長形4号、A4三つ折りなら長形3号が入ります。
- 表面:中央に「退職届」(退職願の場合は「退職願」)
- 裏面:左下に所属部署と氏名
- 封をする場合は、綴じ目に「〆」
手渡しの場合、封をせずに持参する運用もあります。会社の慣習によりますが、封をしておいて問題になることはほとんどありません。
郵送する場合は、退職届だけを送るのではなく、簡単な添え状を同封するのが一般的です。添え状には、退職届を同封した旨と、直接渡せなかった事情を簡潔に書けば足ります。
渡す相手は直属の上司です。人事部に直接持ち込むと、上司を飛ばす形になり、話がこじれることがあります。
提出のタイミングと相手
口頭で退職の意思を伝え、退職日の見通しがついてから提出するのが一般的な流れです。退職日が決まらないうちに提出すると、日付を空欄にするか、後から書き直すことになります。
時期は就業規則の退職申出時期に沿うのが基本です。就業規則に「1か月前まで」とあれば、それに合わせて逆算します。
提出後は、会社側で退職手続きが進み、退職日に向けて社会保険の資格喪失や離職票の準備が行われます。受理された旨の連絡がない場合は、口頭で確認しておくと、後の手続きが滞りにくくなります。
受け取ってもらえない場合(内容証明郵便)
上司が受け取りを拒む、話をはぐらかされて渡せないという場合があります。
退職の意思表示は、相手方に到達した時からその効力を生じます(民法第97条第1項)。裏を返せば、到達したことを示せれば、受け取りを拒まれても効力自体は生じていることになります。
そこで使われるのが内容証明郵便です。いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を出したかを郵便局が証明する制度で、配達証明をつければ相手に届いた日付も記録されます。宛先は会社(代表者宛)とするのが一般的です。
よくある質問
手書きでないといけませんか
法律上の決まりはなく、パソコンで作成しても問題ありません。会社に様式がある場合はそれに従います。署名部分だけ手書きにする運用もあります。
退職理由は詳しく書くべきですか
「一身上の都合により」で足ります。自己都合の退職であれば、これ以上の記載は通常求められません。会社都合の場合は記載が異なることがあるため、会社に確認してください。
郵送で提出してもいいですか
出社が難しい事情がある場合など、郵送での提出も可能です。普通郵便でも意思表示は成立しますが、届いたかどうかが分からないため、簡易書留など記録の残る方法を使うのが一般的です。会社が受け取りを拒む可能性がある場合は、内容証明郵便を検討することになります。
提出した後に撤回できますか
退職届の場合、会社に到達した時点で効力が生じるため、撤回は原則としてできません。退職願で、会社がまだ承諾していない段階であれば、撤回できる余地があるという考え方があります。いずれにしても会社との話し合いになるため、迷いがある段階では提出を急がないほうが安全です。
本記事は一般的な情報提供であり、法律相談ではありません。個別の事情については、勤務先の就業規則を確認のうえ、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、または弁護士等の専門家にご相談ください。