自分で退職を切り出すのが難しいとき、代わりに会社へ伝えてもらうサービスがあります。ただし「退職代行」とひとくくりに呼ばれていても、運営している主体によってできることの範囲が違います。

ここでは仕組みと違い、料金の目安、使う前に確認しておくことを整理します。自分で伝える場合の進め方は退職の伝え方・切り出し方にまとめています。

退職代行とは何か

退職の意思を、本人に代わって会社へ伝えるサービスです。連絡の窓口を代行が引き受けることで、本人が会社と直接やり取りしなくても退職の手続きを進められる、という仕組みです。

法律上、退職ができるかどうかは代行を使うかどうかで変わりません。期間の定めのない雇用契約であれば、民法第627条第1項により、解約の申入れから2週間が経過することで雇用契約は終了します。意思表示は相手方に到達した時からその効力を生じます(民法第97条第1項)。

つまり退職代行は、法律上できないことを可能にするサービスではなく、本人が伝えるという負担を肩代わりするサービスだと理解しておくと、選ぶときの判断がしやすくなります。

3つの運営主体と対応できる範囲の違い

大きく3種類あります。違いは、会社と「交渉」ができるかどうかです。

民間業者 労働組合 弁護士
退職の意思を伝える できる できる できる
退職日や有給の交渉 できないとされる 団体交渉として行えるとされる できる
未払い賃金の請求 できないとされる 交渉の範囲で扱えるとされる できる
損害賠償を求められた場合の対応 できないとされる 対応に限界があるとされる できる
裁判手続き できない できない できる

民間業者

本人の意思を会社に伝えることが中心です。伝達に徹する限りは問題にならないとされていますが、退職日の調整や有給の取得について会社と話し合いを行うと、次に述べる問題が生じ得ます。

労働組合

労働組合には団体交渉権があり、組合員のために使用者と交渉することができるとされています。退職代行を行う労働組合に加入する形をとることで、退職日や有給の取得について会社と話し合える、という仕組みです。

弁護士

交渉に加えて、未払い賃金の請求、損害賠償を持ち出された場合の対応、労働審判や訴訟まで扱えます。対応範囲が最も広い一方、費用は高くなる傾向があります。

民間業者ができないこと

弁護士法第72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことなどを禁じています。いわゆる非弁行為の規制です。

このため、民間業者が本人に代わって会社と交渉すること、たとえば「有給を全部消化させてほしい」「退職日を早めてほしい」と会社と掛け合う行為は、この規定との関係で問題になり得るとされています。

料金の相場

一般的な目安としては、民間業者が2万円台から3万円台、労働組合が2万円台から3万円台、弁護士が5万円前後からとされることが多いようです。

弁護士の場合、未払い賃金の請求など交渉を伴う場合には、回収額に応じた成功報酬が加算される料金体系が一般的です。

使うべきか、自分で伝えるべきかの判断材料

費用をかけてまで使うかどうかは、次のあたりで分かれます。

退職代行を検討する理由として挙げられやすいのは、次のような状況です。

  • 上司に伝えようとしても取り合ってもらえない
  • 引き止めが強く、話し合いが進まない
  • ハラスメントがあり、直接やり取りをすること自体が負担になっている
  • 体調を崩していて、出社や連絡が難しい

一方、次の場合は自分で伝えるほうが早く、費用もかかりません。

  • 上司との関係が悪くない
  • 就業規則どおりの時期に、通常の手順で辞められる見込みがある

判断がつかない場合、まず公的な相談窓口に状況を話してみるという選択肢もあります。都道府県労働局や労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーでは、労働問題全般について無料で相談できます。

使う前に確認すること

依頼してから慌てないよう、次の点は事前に整理しておくと安心です。

  • 有給の残日数:消化を希望するなら、交渉ができる主体を選ぶ必要があります。残日数は給与明細や勤怠システムで確認できます。
  • 貸与品:健康保険証、社員証、パソコン、制服などの返却方法を決めておきます。郵送で返却するのが一般的です。
  • 離職票などの書類:失業保険の手続きに必要です。どこへ送ってもらうかを伝えてもらいます。
  • 私物:ロッカーやデスクに置いたままの私物をどうするかを決めておきます。
  • 退職届:代行を使う場合でも、書面の提出を求められることがあります。書き方は退職届の書き方にまとめています。

申し込みから退職までの流れ

おおまかには次のように進みます。

  1. 相談・見積もり(無料としている事業者が多い)
  2. 申し込みと支払い
  3. 状況の聞き取り(退職希望日、有給の希望、貸与品、私物など)
  4. 事業者から会社へ連絡
  5. 会社からの返答を受けて、退職日や書類の受け渡しを確定
  6. 貸与品の返却と、離職票などの受け取り

連絡そのものは1日で終わることが多い一方、離職票が届くまでには退職日から2週間程度かかることがあります。

よくある質問

会社から本人に直接連絡が来ませんか

本人への連絡を控えるよう会社に伝えるのが一般的な運用です。ただし、会社が本人に連絡すること自体を法的に止められるわけではありません。連絡が来た場合の対応は、依頼先に確認しておくと安心です。

即日で辞められますか

「その日から出社しなくてよい状態にする」という意味であれば、有給の消化や欠勤の扱いを会社と調整することで実現される場合があります。ただし、雇用契約そのものは民法第627条第1項により申入れから2週間の経過で終了するのが原則です。日数の扱いは会社との調整によるため、断定はできません。

退職代行を使うと不利になりますか

退職の申し出方法によって、退職そのものの効力が変わるわけではありません。ただし、円満な引き継ぎができないことによる社内の心証や、同業界の狭い範囲での評判といった実務上の影響までがなくなるわけではありません。使うかどうかは、その点も含めて判断することになります。


本記事は一般的な情報提供であり、法律相談ではありません。個別の事情については、勤務先の就業規則を確認のうえ、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、または弁護士等の専門家にご相談ください。